この2ヶ月、諸事情から出かけることができず、家の中でうろうろしていた。
ちょっとゆとりが持てるようになった兆しか、いつもの癖が騒ぎ出す。
明日は天気、さて、どこに行こうか・・・・日ごろから温めているプランから選ぶ。
といっても、山かお遍路か、京都か奈良からだけれど。
とにかく、静かに歩きたかったので、知多四国のお遍路を選ぶ。
これが実にいい選択だった。
12月9日(日)晴れ
名古屋駅7:25発、終点の内海駅まで名鉄電車に乗る。
始めは景色を眺めていたのだけれど、知らぬ間に居眠り。
気づいたら、内海駅だった。(8:30着)
前回区切った師崎(39番篠島・日間賀島)までは、さらにバスに乗るのだが、その前に、まず内海駅近くの45・46番を先に打つ。
今回はとても変則的な歩き方をした。
(前回39→46→45→バス→番外→40→番外→43→42→41→44→47)
電車の中で居眠りをしていたからか、駅から歩き始めるも、自分が進むべき方向がわからなくてあせった。何せ駅前に(駅裏も)目立つような建物がないのだ。自分の影と手にした地図を見比べ、あれあれ?と、うろうろする。
2ヶ月も家の中でくすぶっていると、こんなに感が鈍るものかと驚きもする。
●46番如意輪寺(内海駅から800m) 8:45~9:00
山門で一礼。手水場で手と口を清める。本堂にお賽銭をあげ般若心経を唱える。
大師堂でろうそく・線香・納め札・写経・お賽銭をあげ般若心経。納経所。
誰もいない静かな境内だった。特に写真を撮りたいと思うお寺でもなく、休憩もせず山門を出る。どんなお寺だったかまったく記憶がない。
次の寺に向かうとき、またいい加減なほうに進んでしまった。自分の影を見て北に進んでいることにすぐ気づく。またアレレ? 犬の散歩をしているおじさんに「海はあっちですか」と確認する。大回りして川沿いを正しい方向に進む。
●45番泉蔵院(46番から800m) 9:18~9:35
知多半島南西端、海の前の段丘上に建つお寺で、階段を登っていく。
一通りのお参りをすませ納経所でひとことふたことお話したが、境内の様子は特に印象に残っていない。誰もいないと記憶に残りにくい。
ここからはバス(9:45発)に乗って知多半島先端の師崎にようやく戻る。

海を眺めながら20分ほどバスに揺られる。
海が眩しいくらい光っていたのが印象的だった。
●番外浄土寺 10:05~10:20

門前のつわぶきの黄色が目を引く。ここでは、お遍路さんが何人かいて挨拶を交わす。
後で気づくが歩き遍路もいた。
だんだん調子が出てきた。方向を間違えることもなく次に歩き出す。

嫌いな国道歩きだが、海を見て歩くのは気持ちいい。
ちょうどお四国でいう瀬戸内海を見て歩く感じである。海から吹く風が強い。
●40番影向寺(番外浄土寺から4km) 11:00~11:20
参拝後、休憩していたらバイク集団の若者がぞろぞろやってくる。ちょっと身構える。
彼らはお参りもせず納経所へ向かう。後でお参りする子いたりいなかったり。
いい子達のようなのだが、格好が黒ずくめ集団だったので怖かった。

このお寺は子安観音が祀られ、孫を連れたおばあさんが熱心にお参りされていた。
何だかほんわかした気持ちで、お寺をあとにする。
このとき歩き遍路に再会した。でも広い境内の端と端、会釈程度だった。
さて、今度は国道を避けて、今回楽しみにしている山道を上がる。
何せ、ここ知多四国には、四国のように道しるべも遍路シールもないのだから、山道に入るときは地元の人に道を確認しておきたい。
地図を見せて「この道を行きたいのですが・・・」と通りがかりのおじいさんに尋ねる。
すると、「この道は大変だよ。どこに行くの・・・」と反対に聞かれ、説明するのに大変だった。 わざわざ難儀な道を教えることになったおじいさんは困っていた。お四国でも何度か経験している、せっかくのご好意をすみません、という気持ちだった。安易さを振り捨てる冒険心を伝えるのは時に難しい。
目的のお寺に行き着く道だということを確認して歩き出す。
いい具合に紅葉した山の中をぐんぐん上がっていく。
ほっと一息つき、左に目をやると遠くに海が見えた。

こんな素晴らしい景色が見られるとは思わなかった。あえてこの道を選んで良かった。
対岸は三重県の鈴鹿山脈だと思う。
見渡す限りのキャベツ畑に出た。こんな高台でキャベツが作られるのだということをはじめて知った。それにしてもすごい量である。
遠くでスプリンクラーが勢いよく回る。水が霧状になって私の頬にもわずかだが届く。
スプリンクラーに近づくと光の屈折で小さな虹が見えた。歩くと消えてまたすぐ現れる。
調子が悪いスプリンクラーがあった。1回転に1回、道路に大量の水を撒いている。
私はそこを通るとき、大縄回しの縄にひっかからないような感じでタイミングよく抜けた。
意外とスリルがあって面白い。広大なキャベツ畑を飽きることなく歩いた。
集落に出たところで、目当てのお寺があるか地図を確認する。道があっていてほっとする。
さらに歩き、地元の掲示板に張り紙をしているおじいさんに声をかける。
「奥の院はこの先ですか?」
「私は耳が遠いのだが・・・」
「お・く・の・い・ん?」
そうまでしなくても聞こえたらしいのだが。
「奥の院の説明を少ししていいですか」というので、今度はだまって大きくうなずく。
「右側が女坂、左側が男坂、今では女の人も男坂を通って良いが、どうかあなたは女坂を通っていってください」と。そして最後にこう言って送り出してくれた。
「あなたの歩きっぷりなら2分半で着きます。階段から落ちないように、どうか気をつけて」
四国ではこのような出会いは多かったが、知多四国ではあまりない。
私は嬉しくて、耳の遠いおじいさんに何度も頭を下げお礼をのべた。
おじいさんが言った2分半では着かなかったが、5分かかるといわないところが憎いなと思った。
●番外 奥の院(40番から3kmくらいだろうか) 12:25~12:40

深い木立の中に朱の堂塔がひときわ映える。知多四国にもこういうところがあるのだと、しばらくたたずむ。
808年に弘法大師がこの地を訪ね岩窟を穿ち、百日間の護摩を厳修、その灰で一寸八分の千手観音像を造り、先師・行基菩薩作、聖観音像の胎内に奉安されたという。この像を今に伝えて本尊とする。と伝えられている。
四国71番弥谷寺にあったような岩窟があった。
納経所はなかったが、次の所できっといっしょにもらえるのだろうと気にせず先に進む。
●43番岩屋寺 (奥の院から300m) 12:45~1:05
立派なお寺だった。尾張高野山宗総本山岩屋寺とのこと。
車遍路がつぎつぎとやってくる。
奥の院の分も納経してもらえた。
風が出てきた。頬が冷たい。
自転車に乗った小学生の男の子が背後から「こんにちは」と挨拶してくれる。
しばらくして自転車に乗った中学生ぐらいの男の子も、きちんと挨拶をしてくれる。
耳が遠いと言ったおじいさんも感じが良かったし、四国と変わらない優しい人たちが住む土地なんだと思った。
●42番天龍寺 (43番から700m) 1:20~1:35
納経所のおばあさんから、42番寺は42歳の男厄と同じ数字ということで厄除け寺といわれるという話を聞く。
「若いのに歩いてえらいねぇ」といってみかんをお接待くださった。おばあさんよりは、うんと若いのだけれど、いくつが若いのかなぁ。まぁいいか。
白衣に納経印をもらうのを見ていた女性三人組みから、「これはどういうものなの?」と質問を受けた。亡くなったとき、あの世に着ていくおいずる?というものらしいがあまり詳しくないと答える。「若いのにえらいですねぇ」と労をねぎらわれたが、私とあまり変わらない年齢に見受けられた。
このとき私は大きなヒントをもらった気がした。改めて考えてみると、歩き遍路ができるということは、年齢に関係なく若い(元気)ということで、お大師さまを真似て歩き続ける行為は確かにえらいと思われることでしょう。
しかし「若いのにえらいですねぇ」の意味がこれまでなかなか理解できなかった。自分のどこが偉いのかなぁ?・・・ただ歩いているだけなのに・・・と。
いつも愛想笑いで適当に受け流してきたのだが、その言葉の中には次のようなことがあるのではないかと考えた。
「元気であっても、目標に向かって歩き続けるということは大変でしょう。私も強い信念を持ってこつこつと人生を送っていますが、そう簡単ではないですから。」という意味があったのではないかと思えてならない。うぬぼれであっても、何かを求めて止まぬ一生懸命な姿が、遍路中の私にあったのだと勝手な解釈をした。

このお寺にあった「愚痴聞き地蔵尊」。
いざ愚痴をこぼしてもいいですよと言われると出てこないものだ。
思わず苦笑した。
車道から一本中の安全な道を歩く。山海小学校を超えると海に出る。
バスで通った海岸に出た。
●41番西方寺 (42番から1.3km) 1:50~2:05
道路を挟んで海水浴場が広がる。参拝客はなく静かな境内だった。
参拝後少し休憩し、歩き出したら例の歩き遍路とすれ違った。
結局、話すことはなかったが、私と同じルートだったのでしょうか。
また、この海辺から山道を上がる。このころになると寒くなってきた。
人も車も通らない。静かというか怖い感じ。鳥が飛び立つ音に怯える。

●44番大宝寺 (41番から3.8km) 2:45~3:00
四国と同じ名前の44番大宝寺である。境内の木蓮が有名で通称「もくれん寺」といわれ、現代版「駆け込み寺」。
名前は素敵なのだが参拝客は私だけ。納経所も不在ということで自分で納経印を押す。
私は初めて納経印なるものを手にした。

このお寺に着くまで誰にも会わず、このお寺でも誰にも会わず、そして一人寂しく帰っていく。
なんか寂しいお寺だった。木蓮の花の時期は賑わうのでしょうか。
寒いなか山を下った。本当に寒くなってきたのだった。
●47番持宝寺 (44番から3km) 3:30~3:45

47番に着いたとき、西日に照らされた黄金に輝く銀杏に出迎えられた。
弁天池の横を通って石段を一気に上がる。
今回はここで打ち止め。そう本堂・大師堂に挨拶する。
納経所では「今日はどこまで?」と。四国のようだった。
「今日はとても楽しく歩けた」と伝えると「それはよかった」と。
二言三言の会話がとても心に残った。

行きと違う道で降ってくると、こんな素晴らしい景色だった。
あぁ、今日は楽しかった。元気でぐんぐん歩けた。また続きを早く歩きたいと思った。
内海駅まで300m、4:00の電車で名古屋に帰った。
合計したら18km。疲れるはずない距離だった。でもこのぐらいが楽しくて仕方がない距離なんだろうとも思った。ちょうどいいのだと思った。