平成25年10月13日(日)[E:sun]
沢渡駐車場の車中、ぬくぬくのシュラフからエイッと抜け出し、身支度を整えバスを待つ。
切符販売のオネエサンに往復を勧められたけれど、明日の下山は最終バスの6時に多分間に合わないから [E:bus]片道切符しか買わなかった。釜トンネルが閉まる7時までには下山できるだろうから、往路はタクシーを使うという計画である。
7:30上高地バスターミナル着。穂高がうっすら雪化粧していた。今期初冠雪とか。
今年は10月に入っても名古屋では30℃という暑い日が続いたけれど、穂高稜線はいよいよ冬を迎えた。急激な天候悪化による痛ましい遭難ニュースは、こういう油断する時期が多い。容易に人を寄せ付けないオーラの 『うっすら雪化粧の穂高稜線』に畏敬を抱く。
バスターミナル売店で朝食を仕入れ腹ごしらえしたあと、登山者の流れに乗って歩く。
1時間ほどで明神着。
前日に雨が降ったので名残の紅葉が色濃く綺麗だった。今年は連休が遅いのか、紅葉が早いのか、ドンピシャに来るのは難しい。
考えてみれば、今年は北アルプスに4回入ったけれど徳沢も横尾も行ってない。今年はそんな山行だった。

上高地から一歩入れば誰もいない静かな道になる。私はこの道を山頭火流に『まっすぐな道でさみしい』と呼んでいる。
初めてこの道を歩いた2000年はひとりで、だった。その4ヶ月前に父を亡くしたときだっただけに、この静寂さのなかで 慟哭した。
あれから13年。思い返せば、私は山やお遍路を通して随分強くなった(気がする)。行くと決めた道は進むしかない、と山やお遍路で学んだ(気がする)。

見上げれば山肌の紅葉が綺麗だ。ここまで来いと山が呼んでいる・・・という私流の考え方に火がつく。

振り返ると天狗岳・間ノ岳がよく見えるようになる。ああだったこうだったと回想するのに、徳本峠の道は予想通り最高だった。標高を上げるにつれ見え方が変わり、何度も立ち止まっては眺めた。

そして、まるで絵のような景色が私を釘づけにした。心の栄養剤、いや頓服だ。
さらに標高を上げていくと、今回のシナリオにはなかったこの景色↑を魅せつけられた。
今夏歩いた常念山脈~喜作新道が見通せるとは・・・まるでオノボリサン(山に登ってるからそうなんだけど)だった。へぇ~たまげた~と魅入る。自分が歩いた道を違う角度から見られるなんて願ってもない展開にウキウキだった。
「ねぇねぇ、穂高が見えるのは知ってたけれど、大天井まで見えるなんてすごいねぇ~」と言っても夫の反応はイマイチ。それでも私は例によって続けた。
「天の神様が特別なものを見せてくれたんだよねぇ。すごいねぇ~」
そういう考え方をしない夫の反応は実にモノタラン! ものでしたが、まぁいつものこと。強引に夫を私の陶酔の世界に引きずりこむ。

峠直下の樹々はもう葉を落としていた。ナナカマドは実だけになっている。
あれが霞沢岳K1ピークから派生している六百山かなと見ていると、
「あ~っ!西穂稜線に背伸びをしている笠ヶ岳の頭が見えるぅ!」
それが何だと言わんばかりの夫のテンションの低さを感じつつも、お互い我関せずで自分流を貫く。

11:35 徳本峠小屋(標高2140m)に着く。昨日はテント50張りで足の踏み場がなかったらしい。
小屋の手続きを済ませ、小屋前で湯を沸かしお昼とする。
今にも壊れそうな手前の小屋は大正12年に建ったもので、私は2004年に泊まった。その後、旧小屋を一部取り壊し赤い屋根が2010年に建った。

これが旧小屋の屋根裏。ぎゅうぎゅう詰のケンカ勃発で寝た記憶。1mほどの段差でたくさん泊まれるように工夫されている。

そしてこれが2010年に建った赤い屋根の小屋内部。段差をつける建て方は新旧似ていて面白い。
新しい小屋の屋根裏から見えるのは小嵩沢山(こたけざわやま)。この山を降ると島々のようだ。

明神のひょうたん池から東稜~前穂のルートを勝手に想像するにはいい場所だった。極めつけは前穂から吊尾根~奥穂~ジャンダルム~天狗岳~間ノ岳~西穂と体験を重ねあわせての擬似縦走。最高のステージだった。

2004年の頃はコレですよ。これを覚悟して行ったので、佃煮やふりかけなど夫のために持参したけど無用だった。
今回のご飯は赤飯だと思ったら五穀米、そして松本から荷歩したという朝取れ野菜の天ぷらにカツなど改善されていた。2010年小屋が新しくなったときに小屋番も変わり良くなったと聞く。その昔といっても1995年の記録を読んだら、本当に?という小屋番だったようだ。ここは関所みたいな位置づけだったからかな?

夕食後、NHK『小さな旅』で放映された『徳本峠~霞沢岳』のビデオを見せてもらう。明かりを消しランプを灯すという最高のもてなしだった。
ビデオ放映後、外に出てみるとブルブルッと寒い。[E:moon3]月明かりが邪魔して満天の星とまでいかない。月から離れたところにある『W』のカシオペア座は容易に見つけられた。じゃあ北極星はと探すが、どうも木の茂みの中のようだった。
8時半就寝。だけどなかなか寝付けない。ゴソゴソしてたら枕元のカメラに気づき・・・・・・

盗撮した。フラッシュ撮影に一瞬ひやりとしたけれど皆さん熟睡のようでセーフ。赤の他人と枕を並べることもある山小屋の一コマ。これは上等なほう。定員以上は予約を取らない小屋の方針で、ギリギリではあるけれど基本的人権の尊重は守られている。
多少のいびきは気になったけれど、大合唱とまで行かなかったので、そのうち眠った。[E:sleepy]





