平成20年4月27日(日)
部屋の狭いテーブルでおにぎりとカップ味噌汁の朝食。
私は不覚にも味噌汁をダイナミックにこぼしてしまった。
夫に余計な世話をしたりで険悪なムードが流れるなか、時間だけがどんどん過ぎていく。
ホテル土佐路たかすを出て歩き始めたのは6:40を過ぎていた。
朝日を浴びた水田。整然と並ぶ苗にそよ吹く風。
何とも気持ちがいい朝だ。
ホテル出発前の右往左往を思い出しふっと噴出す。
あちこち眺めながら32番に向かう。
32番禅師峰寺。
境内から桂浜の浦戸大橋、その奥にある36番の岬に目をやる。
遮るものがないということはなんとも気持ちがいい。
今日はあそこまで行くのだとだいたいの見当をつけ寺を後にする。
32番下山後、ビニールハウスの横を通って種崎フェリー乗り場まで6km。
この道は、前回もそうだったが船の時間があるのでどうしても気が急く。
なのにこういうときに限って夫が途中でトイレに寄るという。
たかがトイレタイム、されどトイレタイムなのだ。
私はストレスを感じながら「アセルナアセルナ」と呪文を唱える。
まだかまだかという思いでもくもくと歩いた。船着場に着いたのは出航時刻の10分前。
まだ10分もあるのに何故そんなにあせった? 到着してみれば滑稽で仕方なかった。
私はいつもこうなる。そんな自分を嫌というほど目の当たりにした。
フェリーであっという間に長浜に渡り、33番雪蹊寺を打つ。
34番種間寺に向かうへんろ道では、こいのぼりをよく見た。
「ふらふ」という大漁旗のような立派な旗には勇壮な武者絵に子供の名前が染め抜かれている。7歳までこの旗を揚げるという。子供の成長を願う親心が大空に泳いでいた。
34番種間寺を打ち終わったのは12:30だった。
昨日31番竹林寺で出逢った女性遍路(青森のYさん)は、ここまでずっと一緒だった。
よほどの縁があるのか離れるきっかけがない。
「今晩の宿は決めました?」と今日も聞かれて私と違うタイプの遍路だということがわかった。
いつもではないと思うが、この女性は自分で宿を決めないように見えた。
おまけに道中で地図も広げない。おのずと行動が一緒になるわけだ。
1巡目(ひとり)のとき、連日私の宿を聞いてから同じ宿に決める遍路がいたことを思い出す。
道中も今晩の宿も一緒という歩き方で、私はついにつまらなくなってしまったことがある。
お遍路では、予想もしないところでの出逢いがおもしろいほどたくさんある。
その偶然の出逢いが必然に思える大収穫もある。
それにはひとり寂しいくらいに歩いていたほうがいいのだ。
入りたくなかったが「喫茶店に入るのでお先にどうぞ」と女性遍路に恐る恐る言ってみる。
すると「私も」と。そうか困ったな、だった。
お人よしの私は、うまく離れるせりふをそれ以上持ち合わせていなかった。
向こうは気を使っているのかあれこれ頼む。1時間強も休憩してしまったがお陰でゆっくりできた。
仁淀川大橋を渡る。あの山が35番清滝寺かなぁ、と眺める。
町に入ると、2階から子供が「おへんろさ~ん」と呼ぶ。
あまりにかわいいのでカメラを向けると急におとなしく構える。
「もう一度手を振ってちょ~だい」といったら恥ずかしそうにこいのぼりに隠れて手を振ってくれた。
途中ローソンに立ち寄る。今から35番を打って帰りに寄るのでそれまで荷物を預かってくれないかと聞いてみる。するとてっきり断られると思ったら快諾だった。
四国のコンビニは本当にありがたい。
4:00、山の中腹に清滝寺がはっきり確認できるころになると青森Yさんは5時の納経にあせり始めた。
どうぞと先に行ってもらったが急いでもスピードがでる坂でない。
Yさんは途中で変な道にずんずん入っていく。違うよと声をかけてもなかなか戻らない。
結局一緒に35番清滝寺に到着した。
参拝後、今回の楽しみの一つである厄除薬師如来像の「胎内めぐり」をする。
人生、闇の中に入っても手探りで慎重に歩けば、必ずや一筋の光が見えるのだということを今回感じた。
しかし3回目なので緊張感がない。やはりこれは一人旅でするものだと思った。
本来なら、今晩の宿はふもとの宿だが、どうしても海が見える「国民宿舎土佐」に泊まりたかったので、35番を降りたところからタクシーで行く計画である。
青森Yさんも「国民宿舎土佐」に一緒させてほしいと言う。断る理由はないのでOKした。
タクシーで運ばれた3人は、6:10国民宿舎土佐に着く。
食事が7時というので、明朝お参りする予定だった宿の奥にある36番奥の院をお参りする。
奥の院は素足でお参りするように注意書きされている。
足の裏がひんやりと冷たい。霊験あらたかなるものを体得する。
みるみる暗くなった。
宿に戻り風呂に入り、夕食も三人。今日はずっと同行○人だった。
「明日はどうされますか?」と青森Yさんのお決まりのせりふで話が始まる。
青森Yさんは点と点を線で繋ぐことに特にこだわらない人なので
「構わずこの先を歩いてください」と薦めると
「タクシーで清滝寺の麓まで戻るのなら私も一緒に戻ります」と言う。
そうならば35番麓の宿に泊まればよいのに、まったく変わったお遍路さんだと思ったが、
そういう私も複雑なことをする変わった遍路のくせにと苦笑する。
この青森Yさんは私を映し出す鏡だった。出逢わなければならない人だったようだ。
さらに話は展開していく。
夫は我関せずで「足が痛いからここの宿で待ってる」と言い出す始末。
私はもう、この三人三様の考え方が面白くて笑うしかなかった。
あぁ、お遍路は面白い。だからやめられないのだ。
青森Yさんは相部屋(2段ベッドが3つ)でひとりだった。
もう遅いので寝ようかと思ったがもう一度露天風呂に行ったら、また青森Yさんに会った。
よほど相性がいいのだと思った。
そんな話をしながら寝たが、夫は聞いていなかっただろうな。
話を聞いてくれないと文句を言っていた若いころを思い出した晩だった。
われを見る あぁおもしろき 遍路かな










