2006徳島(22~23~辺川)

区切り2回目の3日目 晴れ

昨晩は7人で夕食をとったのに、今朝は3人しかいない。
車遍路の親子さんと私だけなのである。
また、置いていかれた心境になる。
昨日に続き、早立ち遍路さんにはまったくたまげる。

7時宿を発つとき、車遍路の親子さんが見送ってくれた。
お母さんは80歳くらいでとてもお奇麗な方、息子さんもハンサムで素敵だった。
そんな親子遍路さんに見送られ、今日はいい日になりそうな予感がした。  

宿を出て歩き出すと、昨日一緒だった野宿遍路が待っていた。
話を聞くと、山茶花の2~3軒隣で泊めていただいたそうだ。
お布団もあって、お風呂にも入れていただき、夕食もいただいたと嬉しそうに話す。
そう、善根宿でお世話になったのだ。                        

この数日で、彼は徐々に身の上を話してくる。
56歳、リストラで寮を出たので帰るところがないという。
どうしてあげることもできないから、相槌だけは打った。
お遍路をすると何かが変わるような気がすると彼は言った。
結願すると何かが変わるかとしきりに聞いてきた。
結願経験者の私に、すがる思いで聞いたのだろう。
私が想像できないくらいの深い悲しみと不安を背負い、野宿しながら歩いているのだった。
そんな彼が昨晩は大変よくしてもらったのだから、どれほど嬉しかったのだろう。
昨日、足を引きずりながらも頑張ってここまで来てよかったと、彼は喜びに満ち溢れていた。                                   

Img_0019_1足が痛いので、なるべく車道を歩きたいという彼と月夜御水庵で別れた。
逆さ杉の写真を撮っていると、誰かが走ってくる気配がした。
すごい遍路が現れたかと思ったら、今別れた野宿遍路ではないか。
やっぱり一緒に歩くと言って、ぜーぜーとお杖を振り上げ走ってきた。                              

それからしばらく歩くと、オートバイが傍らに停まった。
物静かな野宿遍路が、突然大声を出すので何事かと思ったら、
昨日お世話になった善根宿の方だと私に紹介してくれた。
思わず、私もありがとうございましたと言ったのだが、私がお礼を言うのもちょっとおかしい気もした。
私に紹介できてよかったと、彼はまた熱く語った。
うんうん、と聞きながら歩いた。

         * * * * *

国道55線に出る手前の橋で面白いものを見つけた。
橋の欄干からロープがぶらさがっているのだ。
引っ張ってみると先に魚の仕掛けのような網がついている。
中には死んだ魚が一匹あるだけである。
が、よく見ると蟹がいっぱい入っていた。
なるほど、こんなふうに仕掛けるのかとわかったので、また元通りにドボンと川の中に返しておいた。                              

とうとう魔の55線に出た。
今回は、由岐経由で23番薬王寺に出る計画なのだが、トンネルを2つ越さねばならない。
あいかわらず恐怖のトンネルだった。

         * * * * *

     分岐点 上手く入れた 由岐の道

とうとう野宿遍路は私との同行を断念してくれ、交通量の多い55線を歩いていった。
それでも彼は23番でずっと待ってるからと言う。
そんなに言われても困るし、未練がましかった。
私は適当に相槌を打って別れた。                          

実は、いい加減ひとりになりたかったので、ほっとしたのだ。
しかし、そんな罰当たりなことを言って、本当に罰があたり道を間違えないだろうかと急に不安になった。
罰当たりな考えであるのなら道に迷ってもいい、とお大師さまに身をゆだねた。                                            

由岐坂峠で、自転車遍路の男女に会った。
手を高く上げてお互い合図を送った。

この峠から由岐に降る遍路道を行こうと思っていたのだが、気づくと降り始めている。
想像だが、峠で道路工事の人が大勢休憩していたので、その影で道しるべを見落としたのではなかろうか。
道路工事の人たちよ、お遍路の大事なところで休憩しないで下さいな。
あぁ~残念と、少し大回りの車道をずんずん降っていった。

         * * * * *

     田井ノ浜 沖には小舟 浮かんでる

Img_0025

田井ノ浜に降り海まで行った。
誰もいない、私ひとりじめだった。

木岐で、自転車に乗ったお年寄りの男性としばらく立ち話をした。
すると、私と同じ年の娘さんがいることがわかった。
そのお父さんは私に、何度も気をつけて行きなさいと心配してくれた。

そのお父さんと別れて間もなく、突然涙が出てきた。
6年前に亡くした優しかった父を思い出したのである。
くしゃくしゃな顔で泣きながら歩いていると、少し先にまた私を待っていそうなお年より二人が見えたので、何事もなかったように振舞い歩いていくと、この先の道を丁寧に何度も教えてくれるものだから、途中でこらえきれずまた涙がこぼれた。
お接待のやさしさが、乾ききっていた私の心に本当にしみた。
これはひとり歩きでなければ体験できない。

 

木岐の漁港をぐるっと回って遍路道に入った。
この辺は、遍路シールが少なくて感が頼りだった。
とにかく思ったとおりに行こうと自分を信じて歩いた。

         * * * * *

Img_0028_1      つわぶきや 山座峠に ひっそりと

     山座越え 遍路仲間が 現れる

さぁ、山座峠を降ろうと思った時、何を思ったのか後ろを振り返ると、お遍路さんが歩いて来るではないか。
週末遍路をされている徳島のFさん、待ち人来るだった。

            * * * * *

Img_0031_1

えびす洞は、吸い込まれそうでちょっと恐怖感があったが、 聞きしに勝る景色だった。

朝の予感とおり、やはり今日はいい日になった。

     えびす洞 おにぎり食べる 遍路かな

           * * * * *                      

23番薬王寺の瑜祇塔も日和佐城もよく見えるようになった。

ウミガメ産卵で有名な大浜海岸で飼育されているウミガメを見た。
まるで遠足に来ているような感じである。
ここにある無料休憩所でFさんと長い休憩をした。                

Img_0035_1 とうとう23番薬王寺に到着した。
ここまで由岐経由の道は、実に楽しかった。

例の野宿遍路は、2時間ほど待っていてくれたらしい。
もう、善根宿の橋本さんに出逢ったらしく、今晩の寝場所は確保できたので安心したと言う。           

参拝後、Fさんも野宿遍路とも、ここで本当にお別れした。
野宿遍路のとてもさびしそうな感じが気になったが、お元気でとしか言えなかった。

私はその後、時間を持て余し居場所がなかった。
それならば歩こうと、足が根を上げるまで行ける所まで歩いた。        

途中、雨が降り出し、JR辺川駅に着いたときは日が暮れていた。
17:37のJRに乗り日和佐に戻り、千羽温泉で汗を流しながら時間をつぶした。

日和佐駅21:03発、ライトアップされた23番薬王寺の瑜祇塔と日和佐城を後にした。
徳島に出て、そこからは夜行バスで名古屋に帰った。

  • 夜行バス往復11800円
  • 歩いた距離34.3キロ                        NEXT