平成22年7月20日(火)後半[E:sun]/[E:cloud]
3日目後半
6:45、槍ヶ岳山荘(標高3086)を出発。
信州(長野県)と飛騨(岐阜県)の県境にあたる西鎌尾根を降る。
今日のルート↑は紫色です。 約350m降って千丈乗越(標高2734)へ。
歩き始めは日陰だったが次第に日があたり暑くなってきた。千丈乗越から奥丸山までが一望↑できるようになり、あれを行くんだなとルートを確認する。
飛騨沢を見下ろすと、昨晩、山荘の談話室でおしゃべりした北海道釧路の7人のパーティーを見つけた。大きく手を振ってみたがやはり気づいてもらえない。やがて樹林帯に消えていく彼らを「また来れるといいね」と見送った。
飛騨沢に落ちる自分の影とイワツメクサ↑。風もなく静かな西鎌尾根だった。
7:42千丈沢乗越着。振り向いて槍を見上げる↑とずいぶん降ったことがわかる。
この千丈沢↑は天井沢と合流する。その地点が『千天出合』といって北鎌尾根の取り付きらしい。千天は高瀬川となって高瀬湖に流れ着く。
千丈乗越からは進路を南にとり、足元が悪い樹林帯を大きく降る。すると予想通りクロユリ(草丈20cm弱)が咲いていた。腰をかがめ覗き込んで挨拶する。うん綺麗だ。
朝露がズボンの裾を濡らす。8:07分岐に出た。マイナーなルートなので不安だったが道標があって安心した。笠ヶ岳は雲に覆われ始めた。それでもこちらは日差しは強く暑かった。
左)コバイケイソウ 今年は群生は見られなかった。
右)キヌガサソウ ピンクになっているので開花してから日にちが経っているようだ。
ナナカマドはたくさん花をつけていた。紅葉の時期もいいはずだ。足元はハクサンフウロのピンクがアクセントとなり、私好みの道になっていた。
8:55、飛騨側から雲が涌いてくる↑。あぁ、もう少しこの景色を見せておくれ!と雲に頼んだ。
左)ヒメイチゲ 草丈5~10cmほどでとても可愛い。地面に這いつくばって撮影する。
右)ギンリョウソウ 葉緑素がなく白い。日陰に咲く。撮影がてら休憩した。
消えそうな登山道をなぞりながら進む。アップダウンを重ねてもなかなか分岐に出ないので不安になったが、この道しかないので進んだ。
9:56標高2356。槍平小屋から上がってくる分岐に着いてほっとした。水分補給していると黄色が目に飛び込んだ。登山客を激励するかのように咲くニッコウキスゲだった。ありがとう。そういう言葉が自ずと出た。
来た道を振り返る↑。千丈乗越から2時間10分。汗だくになって歩いた道が見渡せ、意外と大変だったなと感慨にふける。
奥丸山(標高2439)に着いたのは10:20。そのころの穂高稜線は雲にからまれ簡単には明けそうになかった。槍ヶ岳山荘で買った焼き立てのクロワッサンをここで食べようと楽しみにやってきた私はがっかりだった。
10:35、奥丸山を出発。さらに南に1時間ほど中崎尾根を行く。通る人が少ないから踏み跡が狭いが道はわかりやすかった。
樹林帯に入って間もなく、わさび平に降りる分岐に出た。↑11:27標高2159。3日間私を楽しませてくれた穂高とここで別れることになった。(写真奥が穂高)
ここから標高600強降ることになる。
この登山道は5年前(2005年)にできた新しい道で、踏み跡がしっかりしていない。初めの350(標高1800mまで)は、木の根を跨いだり、掴みながら降る連続で難儀した。
何度目かの休憩で携帯メールが入っていることに気づいた。メールの文字は、私がやり遂げようとしていることを応援してくれるものだった。私は1時間続けて歩けないほど疲れていたが「標高100mずつ下降!」を自分に課して、それを繰り返そうと決めた。何度目かには目的地に着くのだということを思い出させてくれるメールだった。
そういえば中崎尾根から降り始めてまもなくのこと。何か小さなものが私の足元を横切った。目が慣れてくると、色は茶色で体長3センチほどの『小さなカエル』だとわかった。1時間の下山中に、100匹とは言わないが少なくとも50匹のカエルが、どこからともなく現れてはピョ~ンと草むらに消えていく。次第にわかってきた。『無事カエル』。「この最後の降り、気を抜かずにね」とカエルが教えてくれているように思えた。
標高1800を過ぎると、道が落ち着き歩きやすくなってきたが猛烈に暑くなった。中崎尾根から500降り標高1650になったころ、沢の音が聞こえてくる。地図ではまだ先のことなので諦めていたら、近くに小さな沢↑を見つけた。倒木を跨ぎ、帽子を脱ぎ捨てながらその沢に駆け寄った。顔をざぶざぶ洗う。冷たくて最高だった。一息つき仰いだ空は緑一面で何とも清々しかった。
顔を洗った沢の下流を渡り、地図に載る下丸沢(↑左)を渡る。そして下丸山を回りこむと蒲田川に架かる立派な橋(↑右)が見えてきた。橋の奥から双六方面から降りてくる登山客が見えた。そういえば飛騨沢を降る北海道のパーティ以来、登山客を見ていなかったことに気づく。何だか下界が恋しくなっていたようでもあった。
立派な橋に着いたのは 1:45だった。
←蒲田川を渡って左俣林道に合流する。
やれやれと今降りた山を見上げ→感慨にふけりながら林道を歩いた。
わさび平小屋に2:10到着。標高1450。ここで裸足になり沢に足をつけていると、明日山に入る暇そうな登山客たちに捕まった。私はまだ新穂高まで歩かなければならないので、いつまでもおしゃべりはできない。切がいいところで「よい山旅を」と言って別れた。
わさび平小屋から笠新道登山口を過ぎ、新穂高までの林道歩きで3日間を振り返った。
初日の大天井までの登り、2日目の大槍ヒュッテまでの登り、3日目の中崎尾根からの降りを思い返しながら苦笑した。槍から見えた景色のように、私のこころの視野も少しは広くなってくれているといいのになぁと思った。
歩き残した道をこの先どう歩こうか・・・と、あれこれ考えているうちに林道ゲートに着いた。3:20標高1150mだった。
平均上昇率(1分あたり) 5m
垂直上昇高度の合計 450m
平均下降率(1分あたり) 6m
垂直下降高度の合計
2007m
上昇/下降の回数 3回(標高差が50m以上でカウント)
総時間 9時間33分(休憩含む)
ゲート前にあるニューホタカの『日帰り入浴500円』の看板を我慢して見送った。なぜって、その先の温泉に入る計画だったから。でも計画なんてもうどうでもよくなった。きびすを返しニューホタカで3日分の汗を流した。お客はゼロ。贅沢にも貸切だった。あっちは300円高いし、絶対混んでいるはず。計画変更してよかったと思った。
新穂高も上高地もどちらも好きだが、どちらから山に入りたいかと問われれば、今の私は観光地化していない新穂高のほうが好きです。新穂高からのコースをまた考えていますが、いつ実行できるかは天気次第です。
これで北アルプス横断は一応おしまいです。長い間お付き合いくださってありがとうございました。