平成20年9月5日
5:30横尾山荘の朝食。
朝食の話題は決まって天気のこと。
松本市の天気予報は午前中晴れらしいが、ここ横尾では曇っている。
6:00梓川にかかる横尾大橋を渡って、神聖なる神降地(かみこうち)に入る。
幸い団体にも遇わず、静かな道は何とも気分がよい。
屏風岩をぐるっと回り込む。
何度見ても大きい岩山は圧巻。
[E:upwardright]本谷橋に7:11着。
涸沢カールへの一般道はこの橋を渡るのだが、我々は橋を渡らずこの本谷をつめる。
本谷に残る雲が意外に多いことに不安を感じながらしばらく休憩。
7:29本谷左岸を行く。
ここからは、一般道でない。
落石が多いのでヘルメット装備で臨む。
[E:upwardright]本谷橋から1時間ほどしたら空が明るくなる。
ドボンしないようにどんどん沢を上がっていく。
どうしても一歩では上がれない大岩ではガイドに引っ張り上げてもらう。
涸沢の出合で休憩。
本谷橋ができるまでは、ここから涸沢に入ったとか。
今では誰も来ない。
[E:upwardright]9:19振り向けば屏風岩が立派だった。
このサイズで目にしたのは初めてだった。
何度も振り返って見た。
9:32本谷をどんどんつめると水量が細くなり、浮石が多く難儀した。
[E:upwardright]標高2000くらいになると雪渓歩きになる。
雪渓上の落石の多いこと。
二俣分岐で左俣にルートをとる。
右俣は天狗池に出られるらしい。
いずれもマニアックルート。
本谷から見上げる空が青くなってきた。
10:24スパッと切れた雪渓を渡る。
のぞいて見たが特に綺麗な様子はなかった。
[E:upwardright]幻の滝「北穂の滝」が左に見えてきた。
この奥二俣(標高2340)を左に行って北穂池がある台地にあがるのだけれど、どんどん足場が悪くなり難儀することになる。
奥二俣を右に行くと南岳~北穂の大キレットのカールに出るらしい。
大キレットから滑落したらここを捜索するのだろうと想像する。
もっとも信州側に落ちた場合だけれども。
なんて人事のようにいっている自分も、かなりマニアックなところに来ている。
11:00北穂池がある台地から落ちるこの滝は、落差100メートル。
この先、水が流れ落ちる台地に上がるのが、思いのほか大変だった。
左:10:39本谷を振り返ると常念岳の頭が見え出す。
右:11:28 〃 常念岳が立派だった。
蝶ヶ岳~常念岳を縦走したときの大変さを思い出す。(テント縦走)
[E:upwardright]12:01南岳とそのカール。
涸沢カールにないこの静けさはとりこになりそうだ。
[E:upwardright]12:24北穂池がある台地を捕らえたがそこに行くルートがない。
木につかまって無理やりトラバース。
木の根元に乗っかるしかなく、何度か滑って転ぶ。
辛うじて木にぶら下がって助かる、ということを繰り返す。
これが単独行だったら、木に絡まってやばいことになると想像した。
急に雲行きが怪しくなる。
本来だったら、屏風岩や常念岳が見えるはずなのだが雲で見えなくなる。
[E:upwardright]木のしがらみから抜け出したら、今度は浮石につかまる。
12:39台地まで手強い浮石を降っていく。
北穂池は人が入った気配がまったくない所にあった。
[E:upwardright]12:53近くによると結構大きい池だった。
池の向こうには屏風岩や常念岳が写るはずだったのだが、雲で隠れている。
まぁ来れただけ良しとしなければ。
神様が許可してくれたのは立ち入りだけなのだからと勝手に思う。
謙虚にと思いながらも、池の対岸にテント2張りぐらいできるスペースがあるなとチェックしている自分の貪欲さに苦笑いする。
到着してまもなく、雨がぽつぽつ。
「ありの地獄」の底にいるようなところから北穂東稜を見上げるとかなりの高度だった。
写真を撮るまもなく雨具を着込み、ザックカバーをつけ、フル装備。
迷ったがカメラはザックにしまった。
この先の「ありの地獄」からの這い上がりは難儀した。
ガスが出てきて真っ白の中、あとどのぐらいで東稜なのか、わからず這い上がるのはかなりつらかった。
当然だが大自然はそんなに甘くはなかった。
帰ってから2001年のヤマケイをぱらぱらめくっていたら、よくわかる[E:upwardleft]この写真を見つけた。
(本当はもう少し右側の景色を見たいのだが)
1番高い山が北穂高岳で、その手前裾の右端のカールを今回這い上がったのだ。
この「ありの地獄」から東稜までの標高350ほどは、かなりのきつさだった。
何度も、自分が選んだ道なのだと言い聞かせながら歩いた。
東稜に出れば見えるはずの涸沢カールもガスで真っ白だった。
しばらく東稜に腰掛、途方にくれた。
北穂に上がるのは断念していたので、とにかく涸沢カールへと降りる。
日本を代表する某山岳部出身のガイドに続きひたすら歩く。
もうそこまで来ていることがわかっているだけに不安はなかったのだが。
雨が本降りにならなかったことと、寒くなかったことが幸いだった。
ハイマツをつかんで無理やり降りる。
最後には、ハーネスをつけてザイルで降ろしてもらう。
テンション掛けて降りるのはちょっと怖かったが、そんなこと言ってられない。
2回目の下降でガスが切れ、一瞬だが涸沢のテント場をこの目で捕らえた。
やれやれ、北穂登山道に出て、涸沢ヒュッテに到着したのは6:15。
暗くなる一歩手前のことだった。
行動時間12時間、平気とは言えないが、楽しくもあった。
夕食は広い食堂で3人だけだった。(6:30)
無謀な山行だといわれれば、そうでないとは言い兼ねる。
見守ってくださった神様に感謝したことはいうまでもない。
H1600横尾山荘6:10発
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H1800本谷橋7:11着
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H2479北穂池12:53着
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H2814北穂東稜
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H2309涸沢ヒュッテ18:15着
振り返れば前半の北穂池までの標高と時間を比べるとペースが遅かった気もする。
が、沢をへつったり、浮石の急坂、雪渓、草付トラバースなどで私はこれが限界。
マニアックルートで景色を堪能したいのならば、もっと足を鍛えるしかない。
夕食後、ぬれた雨具等を乾燥室に吊り下げる作業に忙しかった。
涸沢では決まってこのヒュッテを利用しているというガイドだったので、一般料金で個室という待遇だった。
そんな具合で小屋の込み具合はわからないまま、床に就いた。